そういうことだったか、と安堵した俺は、
玄関のほうで背を向けて、
その間に服を着てもらった。
服を着ると「すみませんでした」と言って、
まだ背を向けていた俺の横を通って、
玄関でそそくさと靴を履きだした。
嫁
「あ、あの、お詫びしたいので、
連絡先を教えてください」
俺
「いや、べつにいいよ。」
嫁
「いえ、お願いします」
まぁ、隣人さんだし、いいか。
携帯を取りだして
赤外線で連絡先交換をするべく近づけた。
だがここで女は予想外の行動に出た。
俺の携帯をガッと掴みとると、
玄関を開けて出て行ってしまった。
俺
「おい!待てよ!おい!?」
信じられん。
何が起きてるのかさっぱり分からん。
靴を履いていなかった俺はとっさの出来事に
すぐ追いかけることが出来なかった。
とはいえ、どこに住んでるかは分かってる。
慌てることもないか。
俺はゆっくり歩いて405号室に向かい
インターホンを押した。
「どうぞ、入ってください」
(なんだ抵抗しないのか……?)
ドアを開けると、女はリビングにいた。
女
「どうぞこちらへ」
いきなり女性の部屋に入るのは抵抗があったが、
携帯も取られてるし、おとなしく入ることにした。
テーブルを挟んで向かいに
座布団が敷かれ座るように促された。
女はずっと俯いている。
1分くらい黙ったまま向かい合って座っていると、
女が謝ってきた。
女
「本当にごめんなさい。携帯お返しします。
失礼なことをしてすみませんでした。」
俺
「どうして携帯持っていったの?」
女
「あの、その、変な写真撮られてたら
どうしようと思って……」
俺
「あ。」
なるほど、
あられもない格好で寝ていたわけだから、
目が覚めるまでの間に写真を撮られているかもと
警戒しての行動だったわけだ。
まぁもとより写真撮ったらアウトだろ。
俺
「疑いは晴れたかな?」
女
「はい。というか、
わたしが勝手に入って寝てたのに、
疑ったりしてすみませんでした」
俺
「いやいや、仕方ないよ。
じゃあ、ホッとしたらお腹減ってきたし、帰るわ」
女
「お食事まだなんですか?」
俺
「あぁ、仕事が忙しくてね。それじゃ」
女
「あの、もし良かったら、
すぐ用意するので食べて行ってください」
俺
「いや、悪いし、」
女
「いえいえ、お詫びしたいので」
そういうとキッチンへ駆けて行った。
まぁお詫びならと、
俺もお呼ばれすることにして
上げかけていた腰をおろした。
ここでやっと冷静になった。
ここワンルームだし一人暮らしだよな。
そういや酔ってたから俺の部屋と間違えたわけで……