「義妹息子ちゃんのお迎えの時間よ!」
散らかる、汚される、怒鳴られる、蹴られる、息子の泣き声が聞こえる。
読み上げているはずの自分の声など聞こえない。
やがて最初は違って聞こえていた義妹娘と息子の泣き声の区別がつかなくなってきた。
どちらのオムツを替えたのかも分からなくなって、両方替えた。
献立を考えてくれた人にお礼のレスをしているうちに、急に目が覚めた。
そんなわけで、結局作ってないです。ごめんなさい。
その直後に「トイレットペーパーを買ってきます」と、
通帳印鑑(出産費用が不安で産院にも持ち込んでいた)と身分証と日記と
お財布と母子手帳一式だけ持って実家に向かった。
途中でショッピングモールに行き、親に電話をかけた。
事情を説明しようとしたら
「迎えに行くから動くな、義実家がうるさいだろうから電話を切っておけ」と叱られた。
息子の肌着と服とオムツ、ミルトンと哺乳瓶を買って、親を待った。
息子は珍しいくらいよく寝ていた。
新生児と荷物を抱えてベンチにへたり込む女。
異様だろうに、知らないおばちゃん達が優しくしてくれた。
息子を「守るべき存在」としては認識していたけれど、
いろいろ感覚が麻痺して「可愛い」とは感じなくなってきていた。
でもおばちゃん達に「なんて小さくて可愛いの」と口々に言われ、
両親だけじゃなく、祖父も、怪我をしている祖母も、温かく迎えてくれた。
背中を撫でてくれた祖母の手が温かくて、声を上げて泣いた。
スマホには義実家からの着信がたくさんあって、ゾッとした。
また鳴った時、動けなくなった私に代わって、父がスピーカーモードに変えた。
「世のお母さん方がしている程度のことしかお願いしていませんよ、嫌だわ」と
義母の声が聞こえた。
私から見て、母は口が立つ方ではない。
おとなしく優しく、ひたすら癒し系の女性だ。
でも、母は怒鳴った。
「世のお母さん方が臨月で新生児の世話をしてるというの?
新生児がいるのに臨月なわけがないでしょう! あなた方は2人分の、
しかも女性の一生の中でも特に辛いはずの時期の2人分の役割を娘に押し付けた!
それを反省もしていないんですね!」
「ちょっと母や妹が頼み事をしただけです。
嫁子さんが産褥期の女性だから不安定で、だから騒いでしまってるだけです。話せばわかりますよ」
「言葉で身を立てている娘が、青ざめて一言も発していませんよ。
娘から言葉を奪ったあなた方を、我々は許しません」祖父が頭をぽんぽんしてくれた。
祖母が私を守るように抱きしめてくれた。
愛されてる。
なぐられたり蹴られたりしてるし、まずは明日、病院に行って診断書を取ってくる。
私をこんな目に遭わせた義実家を、そこに放り込んだ夫を許すわけにはいかない。
生まれて最初に過ごした家があんな場所で、息子にも申し訳ない。
これからは穏やかな場所を私が作る。
長いのに読んでくれてありがとう。